今回は県展50回記念に関連し、当館収蔵作品の中から本県ゆかりの作家の作品を紹介します(なお、今回は特別展示として当館収蔵作品以外の作品も展示されます)。
当館の収集は、近代以降の本県ゆかりの作家の作品を中心に、彼らが影響を受けた国内外の作家の作品を対象としています。収集にあたっては、地域性を重視しながら、同時に国際的な視点を持つことが望まれます。ここで、地域性と国際性を、芸術家の内的な表現欲求と、様々な美術動向から受ける外的な影響とに置き換えると、すぐれた作品を生み出すためには、両者のバランスが重要なことに気づかされます。作品の鑑賞には様々な楽しみ方がありますが、本県ゆかりの作家の作品が一同に会するこの機会に、美術における地域性と国際性という観点から、今回の展示全体とそれぞれの作品を捉えてみることも興味深いと思われます。
以下では、今回紹介する作家たちにとって先駆者であった本県ゆかりの作家を含め、今回の展示内容を簡単に紹介します。
まず日本画では、本県ゆかりの日本画の先駆者として、岡倉天心と共に日本美術院を創設し横山大観や菱田春草らを育てた橋本雅邦と、大正から昭和初期にかけて速水御舟と共に近代日本画の革新をめざして活躍した小茂田青樹をあげることができます。こうした先駆者の後を受けて、現在では、今野忠一、関口正夫、関根将雄、加藤勝重、池田憲二、大野百樹といった作家たちが活躍しています。
次に本県ゆかりの洋画の先駆者としては、後期印象派を紹介した斎藤豊作、フォーヴィズムを紹介した斎藤与里、セザンヌの造形に深く共感した森田恒友、ドランに人物表現に学んだ寺内萬治郎など、日本の近代洋画の展開の中でも重要な位置を占める作家たちをあげることができます。彼らはヨーロッパの近代の美術動向を日本に紹介し、その影響を受けながらも、日本の風土に根ざした表現を模索しました。そしてこのような作家たちの後を受け継いだ作家として、独特の点描画法で知られる高田誠、北の原野を描いた相原求一朗、人物画に新境地を開いた小松崎邦雄、風景や静物を茫洋とした画面に漂わせる金子徳衛らをあげることができます。
このほか、彫刻では中野四郎、邑田五朗、細野稔人、工芸では内藤四郎、増田三男らの作品を紹介します
常設展示室 1F 2000 MOMASコレクション 第1期
2000.4.4 [火] - 7.2 [日]
埼玉の美術家 -県展50回記念-
ヨーロッパの近代絵画
常設展示室内の小コーナーでは、当館のコレクションを代表するヨーロッパの近代絵画を紹介します。
当館では、埼玉にゆかりのある美術家をより深く理解するために、彼らに影響を与えた国内外の美術の動向を紹介するため、様々な傾向の作品を収集しています。その中でも核となるのは、19世紀後半から20世紀前半にかけてのヨーロッパの近現代美術に関わる作品です。このコーナーでは、19世紀後半から20世紀前半にかけて登場し、その後の美術の展開に大きな影響を与えただけではなく、日本にも強い影響をもたらした印象派、エコール・ド・パリ、キュビスムなどの動向に関わる作品を紹介します。
新収蔵品紹介
-ドローイング・版画・写真から
1階ギャラリーでは新収蔵品紹介として、平成9年度および10年度に新たに収蔵された作品の一部を紹介します。
草間彌生の1951年作の「集積」は、作者の最初期の試みを示す貴重な作品です。1970年代のドローイング3点は、ドローイングを下地にコラージュを施したタイプの作品です。
高橋秀の「耕」と「集」は、どちらも黒と赤を基調とした明快な画面構成の大型の銅版画です。画面の大きさと、版面に直接ドローイングを施すという制作方法から、絵画的な性格をあわせ持つ作品といえます。 山本容子は版画4点は、〈June Brand ’75〉、〈June Brand ’77〉、〈Journey〉の各シリーズから収集した10作品のうち未紹介のもので、現在は本の装丁等でもよく知られるようになった作者の初期の作品です。
杉浦邦恵の写真2点は、カメラを使わず印画紙を直接感光させて像を得るフォトグラムという技法によって制作された作品です。
会期
2000.4.4 [火] - 7.2 [日]
観覧料
無料
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斎藤与里《朝》1915年
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高田誠《秋の静物》1940年
埼玉県立近代美術館では、2008年度より「常設展」という呼称を「MOMASコレクション」に改めました。当館の常設展では2002年度以降、外部からの借用作品や現存作家のご協力によって、所蔵作品を核としつつも従来の常設展のイメージに捉われない、企画性の高いプログラムを実施してきました。名称変更はこうした意欲的な姿勢を示そうとするものであり、これまで以上に充実した展示の実現を目指しています。
※MOMAS(モマス)は埼玉県立近代美術館(The Museum of Modern Art, Saitama)の略称です。